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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1937号 判決

控訴人 上野啓一

右訴訟代理人弁護士 吉田隆行

右訴訟復代理人弁護士 安保嘉博

被控訴人 新協運送株式会社

右代表者代表取締役 洲崎昇

右訴訟代理人弁護士 木村保男

同 的場悠紀

同 川村俊雄

同 大槻守

同 松森彬

同 中井康之

同 福田健次

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和五六年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審において右の限度に請求を減縮した。)。訴訟費用は第一、二とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、原判決八枚目表一一行目から同裏八行目までの記載を「よって、控訴人は被控訴人に対し、損害金四〇〇万円(前期5(一)(1)ないし(3)、(5)の損害金と同(4)、(6)の損害金の内金一、四〇五、三六〇円との合計金四〇〇万円)及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五六年二月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と訂正するほか、原判決事実摘示中控訴人に関する部分のとおりであるから、これを引用する。

三  《証拠関係省略》

理由

一  本件事故の発生及びその態様についての当裁判所の認定は、原判決理由一(原判決一〇枚目裏二行目から同一一枚目裏四行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。

二1  《証拠省略》によると、控訴人は、本件事故に遭遇した後、その日のうちに京都市内の町塚病院において「頸椎捻挫、腰部挫傷」との診断を受け、同病院に、同日から昭和五六年三月一〇日まで通院した後、翌一一日から同年五月一九日まで入院、更に翌二〇日から同年一一月四日まで通院し、その間、頭痛・腰痛・顔面神経麻痺等の自覚症状を訴え続けてその治療を受けたが、現在においても同様の訴えを持続していることを認めることができる。そして、控訴人が自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級にあたる後遺症の認定を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  しかし、前記認定のとおり、本件事故は、被告車が原告車に時速約五キロメートルで追突したものであって、《証拠省略》によると、右程度の追突による衝撃では、通常、被追突車の乗員の身体に傷害を生じさせることはないことが認められる。そして、本件各証拠を検討しても、控訴人に本件事故に起因することが明かな他覚的症状があったことを認めるに足りる証拠はない。これらの事情に前掲各証拠を総合すると、前記町塚病院の診断結果と後遺症の認定は、いずれも専ら控訴人の愁訴に基づく診断・認定であると推認でき、これを覆するに足りる証拠はない。

3  そうすると、前記1の事実は、控訴人が本件事故によりその主張のような傷害を受けたことを認めるに充分な証左とすることができず、右主張にそう原審及び当審における控訴本人尋問の結果は前記2の事情に照らしてたやすく信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人主張の損害は、いずれも本件事故と因果関係があるとすることができないといわなければならない(なお、本件事故の際の衝撃により控訴人に多少の精神的・肉体的苦痛が生じたことを否定できないとしても、前記認定にかかる衝撃の程度に鑑みると、右苦痛は、いまだ金銭をもって慰謝しなければならないほどのものとは考えられない。)。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がないものとして棄却すべきであり、これと同旨に出た原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川臣朗 裁判官 高澤達 黒田直行)

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